明日、28日より
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボキャンペーン』
ヽ('∀`)ノ スタートォォォオォォウゥゥ!!
いやっほぅい!!
ありがたいね!!
嬉しいね!!
素敵だね!!!
結構言っておりますが……。
まずは現在発売中のスーパーダッシュ&ゴー! 八月号をお買い上げくだせぇ!
そこにはシリアルナンバーがありますので、それをBB.netというところでぶっ込むと、ベン・トーのロゴエンブレムをゲッツできます!
(注:番号を入れた後、きちんと自分が使っているICカードを指定し、エンブレムカスタマイズで「俺、これ使うよ!」って設定するのを忘れずに!)
そして28日からは、二つ名をゲット出来るキャンペーンがスタートってわけですよ。
詳細は、こちらに!!
●詳細はこちらをクリック●
(`・ω・´)b 皆様、よろしくお願いいたします。
さて、話は変わって。
ベン・トー女性キャラアンケートの結果発表はいましばらくお待ちください。
また、拍手コメントの返信も今しばらく……。
ネタバレはもうしばらく先になります故。
(´・ω・`)ほら、ベン・トーって読み終わるのにお時間が必要になる場合が多いので、ちょっと多めに時間を取っておりますです。

(今回は早めに拍手ボタンを設置)
さて、さらに話は変わって。
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボ記念 アサウラが勝手にやらかす特別短編』
……を、公開しようかと。
ヽ('∀`)ノ 書きたいから書き殴ったっていうだけの、ボダブレ短編!
(´・ω・`)先日、っていうか、まぁ昨日なんですけど、某知り合いと食事に行こうという約束をしていたものの……一時間ほど遅刻なされましてね?
それで、その間に何となく書き始め、その後一晩で一気に書き上げた代物のため……誤字脱字、完成度とかを気にしちゃダメです。
……ボーダーブレイクをやったことがない人でも読めるようなものを……と、最初考えていたものの、徐々にそれを無視していった気がするので、最終的にある程度ゲームを知っていないと苦しいかもしれない内容に……。
●ボーダーブレイクのウィキペディアへGO●
優しい気持ちで、暇で暇で死にそうって時にお読みいただければと思います。
また、ここのブログの状態では若干読みにくいかもしれませんので、コピペして、お好きなテキストファイルとかに貼り付けてお読みいただくとよろしいかと。
内容量は文庫換算で30ページほどです。
(`・ω・´)b WEBだから、ベン・トーよりも改行多めだぜ!
(`・ω・´)b…………………………。
(`・ω・´)b ……一晩で30ページ書けるなら、一週間で文庫本一冊仕上げられるな……。
(捕らぬ狸の何とやら……)
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボ記念 アサウラが勝手にやらかす特別短編 ――Aクラスの狼――』
●読み始める前の諸注意●
※まったくボーダーブレイクを知らない人だと、ちょっとキツイかもしれません。
※意外なほどボーダーブレイクは資料が少ないため、結構勝手な設定でやっておりますので、あまり鵜呑みにしないでください。割と創作が多いです。
※(いろいろ)笑って許して。
※作中に出てくる『ニュード』や『コア』はアサウラも詳しくはよくわかりません。何か、毒性の強い資材だったり、エネルギーだったりするみたいです。
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彼にとって、今回が初陣だった。
正確には上級者たちが集うAクラスでの、初の実戦である。しかしながら『ブラストランナー(通称ブラスト)』と呼ばれる汎用人型兵器の搭乗者にとって、Bクラス以下とAクラス以上では天と地ほどの差があるのは常識であり、そこに至るまでが教練であると語る者も数多い。
無論、最下層であるDクラス以上はその全てが実戦である。死ぬ者も数多い。しかし、それでもそれは教練でしかないのだという。
実際、彼がこれまでの記録映像を漁った限り、BクラスとAクラスではその実力に天と地ほどの差があるのはもちろん、個々の腕前だけではなく、その一〇名で構成されるチームの戦略・戦術にも大きな差異が見て取れる。
一秒のロスで勝敗がひっくり返りかねない高速機動戦闘が基本となるブラスト同士の戦いにおいては、かつてのそれのように指揮官が指令を出し、それを部下が実行するといった当たり前の戦法がほぼ不可能となった。その場その場で、通称『ボーダー』と呼ばれるパイロットが、それぞれ状況を一瞬ごとに理解し、これに独自の判断で対処しなければならない。
つまり指示はもちろん、仲間内で情報を伝え合い、次の行動を議論するということすら間に合わないのだ。
ボーダーの多くは彼のように、傭兵として民間軍事会社『マグメル』に登録し、GRF、EUSTという二つの陣営に分かれて争うことになるわけだが、この際基本的に自分がどちらの陣営に配属され、誰と組むことになるのかはマグメルのオペレーター次第である。つまり、昨日の敵は今日の戦友であり、突発的な編成で敵と相対するハメになるため、長く一緒にやってきたが故の経験と馴れ合いによるチームワークなどは皆無である。
だが、Aクラスのパイロットたちはそれでもなお、驚くほど息を合わせるのだ。彼らは各々が培ってきた経験により、その時の状況が自分に何を求めているのかを即座に理解し、そして行動し、味方の勝利へ貢献する。Bクラス以下では、どうしても個々のボーダーがバラバラで戦い、結局数の力を活かしきれていなかったのだと、Aクラスに昇った今の彼は理解できた。
ブラスト同士が入り乱れる戦場における勝敗を左右するのは、個々の実力がもたらす結果としての組織力だ。
そしてそれを踏まえるに、結局のところ、個としての実力はもちろんのこと、その視野の広さ、判断力、そして即応力こそがAクラス以上とBクラス以下との差なのだと、彼は思っていた。
輸送機内にけたたましいブザー音が鳴り響き、瞼を閉じていた彼の意識を揺らした。
寝ていたわけではないにせよ、その音によって彼はコックピットの座席から一瞬尻を浮かしてしまう。
『作戦領域、接近。各ブラストランナーのパイロットは搭乗してください』
EUST専属オペレーターのチヒロの声。すでに搭乗していた彼のコックピットには、黒髪の女性の顔がモニター隅に表示されていた。
彼はメインモニターに表示させていた作戦領域である『オルグレン湖水基地』のマップを閉じ、外部カメラの映像を表示させる。
輸送機内にキッチリと並べられ、未だ機に固定されている複数台のブラストの背が映し出された。軽量型の強襲兵装二機を始め、中量級の支援兵装、そして昨今のAクラスでは珍しいとされるエアロン・エアハート社のヘヴィガードと呼ばれる重量級モデルで固めた重火力兵装のブラストまでいる。
己を含めた、それら計五機の組み合わせは、なかなかバランスが良さそうだった。
もう一機、恐らくすぐ近くを飛んでいるであろう輸送機にはさらに五機搭載されているが、そちらの方は、わからなかった。
足回りや、キャットウォークを酸素マスクを腰に下げた整備兵たちが忙しく走り回っている。そんな中を、悠々と歩いてくる者たち。そこだけはBクラスもAクラスも変わらない。パイロット、即ちボーダーたちだ。初めてのAクラスでなければ、彼もまた彼らと同じように忙しく走り回る整備兵の間を悠々と歩いて来たことだろう。
緊張と不安と、そしてAクラスのボーダーたちにバカにされるのではないかという弱気が、彼を愛機のコックピットに閉じこめていた。
彼はシステムを起ち上げ、今一度自分の機体をチェック。TSUMOIインダストリ社のクーガーNX型をベースに組み上げた軽量寄りの中量級機体。兵装は強襲。
強襲タイプの兵装こそブラスト戦における花形であるが、その分実力を要求される。コア――と呼ばれる敵ベースの資源にしてエネルギー集積体――を破壊するための切り込み要因であると共に、その移動速度の早さから敵に襲撃された際の即応まで全てをこなす必要がある。
上の、新たなクラスに昇級した場合は、まず支援兵装で様子を見るのが良しとされている。だが彼はあえて使い慣れた機体と兵装を選んでいた。自分の一番自信の持てる機体で、兵装で、望みたかったのだ。どうせ死ぬのならせめて自分が最も良しとするもので全力を尽くしたかったし、自分の能力を最も発揮できる構成でなければそれこそAクラスではやっていけない、そう思ったからだった。
彼は狭いコックピット内で一度深呼吸する。鋼鉄の機体と、座席に染みこんだ己の汗の臭い。吸い慣れた、臭い。それはこれこそが己の愛機だと、彼に感じさせた。
汗の臭いだけ死線をくぐり抜け、そして慣れ親しむほどにこの機体で、戦ってきたのだ。
それを思うと、彼の緊張はいくらかでも緩和出来た。経験が自信となるのだ。
座席のシートベルトで己をしっかりと固定していると、ボーダー同士の通信回線がにわかに賑やかになってきた。戦闘開始前に騒ぐのはAクラスでも変わらないらしい。
もう一機の輸送機のボーダーたちとも繋がっており、それぞれが皆、自分勝手な話をしている。今日の飯のこと、チヒロのこと、マグメルのシステムオペレーターにしてボーダーたちのアイドル的存在でもあるフィオナのこと、そして今日の戦闘のこと……。
彼のサブモニターには回線をONにした他のボーダーたちの姿が映し出されており、そこに老若男女、それぞれがメーカーも違えば装備も違う、そのくせして同じように狭苦しいコックピットに収まりながら自分勝手な話をしているというのは、どこか滑稽さを感じさせる。元々は通信回線の最終チェックとして互いに発言をするという通例であったらしいが、今では完全に形骸化し、この有様だった。
彼もまた、回線を開き、天気のことを喋ってみた。今日は、快晴だった。
『あら? 見慣れない方がいらっしゃいますわね。機内ではお見かけいたしませんでしたけど。……戦場では相まみえたことはあったかしら、ねぇ鏡?』
『資料によるとBクラスから上がってきて、今回がその一戦目らしいので、恐らくはないかと。あとこの回線はオープンですから、その当の本人も聞いていることをお忘れなく、姉さん』
自分のことだと、彼にはすぐにわかった。サブモニターを見て、声の主を捜すもすぐに見つける。同じような顔をした十代後半の女が二人……それも、知った顔だった。
《オルトロス》という二つ名を有した双子のボーダーである。沢桔梗と沢桔鏡という、発音するとまったく同じという面倒な姉妹であり、マグメルに無理を言って姉妹で必ず組ませるよう強要したという有名人である。有名になった所以が、その要望を聞き入れられるまで、敵陣営にそれぞれ配備された場合は作戦を放棄し続けたのだという、普通では考えられない手段を執ったことだ。これにマグメルは折れた……が、その時のせいで、実力ではSクラス以上と謳われているにも関わらず、未だにAクラスにランク付けされているのだとされていた。
『あら、それはまずいですわね。……聞こえております? 初めまして、沢桔と申します。あなたと同じ、強襲乗りですわ』
すぐ前にいた機体が駆動し、その上半身を捻って彼の機体に向けて手を振ってくる。その手には、D99オルトロスと呼ばれるデュアルサブマシンガンが握られていた。
オルトロスだからD99オルトロスを使うのか、それともD99オルトロスを使うからオルトロスと呼ばれているのか……ふと、彼はそんなことを考えた。
「あ、どうも。初めまして。今回が初陣みたいなもんで……その、迷惑かけるかもしれませんが……よろしくお願いします。瀬川です」
そう彼――瀬川はやや慌てながら応じた。
『瀬川さん、ですね。……こちらこそ、よろしくお願いいたします。妹の鏡です』
基本ショートだが、左右のもみあげだけ伸ばし、どこかやる気のないような、淡々とした顔つきをした方が言った。
『初陣……なるほど、いい心意気ですわね。よろしくてよ、瀬川さん。そういう気持ちがあるのなら、きっとAクラスにおいても長生きすることが出来ますわ』
ロングの髪、それでいて先程から見ていると表情がコロコロと変わるこちらが姉の梗なのだろう。今は、まるで肉食獣が獲物でも見るような目で、モニター越しに瀬川を見ていた。
『あんま新人をビビらすんじゃないよ、オルトロス。リラックスさせてやんなよ、そいつ、ずっと機体内で小さくなってたんだろうからさ』
折角の豊かで美しい金髪を携えておきながら、何故かボサボサの髪型の女が割り込むように言っていた。青い瞳を持ち、赤いフレームの眼鏡が印象的だった。パイロットスーツのようなものも着ず、赤いスカジャンを羽織っただけで乗り込んでいる辺り、戦闘に対する慣れを感じさせる。
彼女は著莪あやめだと名乗り、そして、あの重量級の重火力使いなのだと述べた。
『あら、著莪さん、お久しぶりですわね。しばらくお会いしない間に装備を変えましたのね』
姉さん、と諭すように鏡が言うと、あっ、と梗は口に手を当てた。
『失礼いたしましたわ、瀬川さん。怯えさせてしまったのなら謝ります。……そうですわね、初めてのAクラスということでしたら、謝罪の意味も込めて、わたくしたちがあなたをエスコートする……というのでいかがでしょう。ご一緒にコアへ向かいませんこと?』
ニッコリと梗が微笑み、言ってくれる。瀬川は一瞬その表情に安堵のようなものを覚えた。何であってもそうだが、ベテランや名うてからエスコートを受けるというのは、何とも言えない安心感があるものだ。
しかし、それは一瞬でしかなかった。鏡が、やれやれというように、首を振る。
『姉さん、無茶ですよ。私たちに付いて来られるとは思いません。足手まといどころか、敵陣に置き去りにしてしまうかもしれません』
鏡の声や表情からするに、それは挑発でもバカにしているわけでもないようだ。ただ事実を述べただけだろう。
『鏡、失礼ですわよ。瀬川さんは、そんなこと……ないですわよね?』
無論、そう言われてしまっては逃げ道はもはやない。瀬川は、付いていく、と口にしてしまう。著莪が画面の中で『あ~あ』という顔をしていたのが、瀬川の鼓動を高めた。
やっぱりやめる、情けなさを押しやり、慌てて瀬賀は言ったがその声はチヒロの通信によってかき消された。
『これより作戦領域に突入します。敵ベースにあるコアの完全破壊が作戦目標です。頑張ってください』
声にどこか初々しさが未だ残るチヒロの声を聞きながら、瀬川は歯を食い縛り、後悔と不安を胸の奥底に沈めるしかなかった。
愛機を戦闘モードへシフト。高々度を飛行する輸送機の騒音よりも、愛機が発する駆動音の方が大きくなる。
愛機の目覚め……この瞬間、いつもそう感じた。そして命の遣り取りを行う戦場にこれからおもむくのだという緊張感が薄れていく。
こいつとなら大丈夫だ、改めてそう思わせる。この感覚を与えてくれるものこそが、愛機だった。
『今回の作戦では、我々に守るベースはない。ただ攻めるだけだ。オルトロスがいる以上、ゆっくり前線を押し上げていくよりも、アクティブにいこう』
気取った感じのする男の声。サブモニターを見やれば、線の細い、それでいて冷徹そうな目をした男だ。コンソールを叩き、情報を出してみると、支援兵装の二階堂という奴らしい。
オルトロスが彼に親しく話しかけているところを見ると、相応の実力者なのかもしれない。
瀬川は、頑張ろう、と、小さく己に向けて呟いた。
輸送機の格納庫の照明が赤く点滅。機体の足下や、キャットウォークを走り回っていた整備兵たちが一斉に酸素マスクを装着。機体が、いや、輸送機がバンク。投下ポイントの微調整に入ったのだろう。
赤い照明が消え、一瞬格納庫内が暗くなる。そこに、筋状の光が差し込んできた。輸送機後部のハッチがゆっくりと開き行く。
整備兵たちが大きく腕を振って合図を出すと、格納庫の床に固定されていた愛機のロックが解除され、ガクンと揺れた。機体下半身のアクチェータが巧みに駆動し、特に瀬川が何をするでもなく飛行中の輸送機内で即座に安定を得てみせる。旧型は全て手動で行うが故に、この際に転倒して大変なことになったらしいが、さすがに今そういう問題はなかった。
完全に開ききったハッチにより格納庫内は凄まじい風が荒れ狂う。多くの整備兵たちは腰から伸びるワイヤーを手すりなどに接続して作業を行っているが、機体内の瀬川にはその苦労はわからなかった。ただ映像と、機体の外部環境の状況を示す細かな数字の変動でしか認識できない。整備兵の戦いは、戦闘の前後なのだ。
そして、瀬川の戦いは……これからだった。
機体が固定されていた部分から、ハッチまでの床にガイドレールが重々しい金属音を上げてせり出してくる。簡易的なカタパルトだった。
『作戦開始です。出撃どうぞ』
チヒロが言うと、オルトロスの姉の方がまずカタパルトへその足で向かい、自らポジションに着く。
整備兵、GOサイン。
『沢桔梗、出撃いたしますわ』
カタパルト、起動。輸送機がその反動で揺れる。梗、輸送機外へ射出。即座に妹もまたカタパルトへ向かい、姉の背を追った。
『ホラ、行ってこい。新米Aクラスボーダー』
著莪にそう背中を押され、二機の連続射出で安定性を欠きつつある輸送機の中を、瀬川は慎重に、しかし急いでカタパルトへ向かった。
ポジションに着き、機体をやや前屈の射出体勢にて各関節を固定。そして、瀬川自身もシートのヘッドレストに後頭部を押しつけるようにして衝撃に備える。
「瀬川、出ます」
衝撃、そして猛烈な加速度。シートに身が沈むような感覚。操縦桿を硬く握り、歯を喰いしばる。
光の中へ飛び出すと、そこは……青。
薄暗い格納庫から、目の覚めるような青空の中へ飛び出したのだ。
加速度は緩やかになり、しかしその代わりの浮遊感が機体、そして瀬川を襲う。地上数千メートルからの降下は、鋼鉄に包まれた中にあっても、やはり、身の縮むような行為だった。
瀬川の周りに数機の機体。もう一機の輸送機から射出された仲間たちだろう。近くにいた狙撃兵装のブラストが、着地前だというのに光学迷彩を展開。空の青さの中に消えていった。
瀬川が周りを意識したのはそこまでだった。
下方に、敵のベースが見える。湖の中にある島、そこに繋がる人工島のようなニュード採掘口とその施設……そしてコンクリートで地盤を固めたエリア。目指すべきは、そのエリアだった。
コアの周りはさすがに警備が厳重であり、砲台が無数に設置されているが、湖の島の方へ射出された瀬川たちに有効弾を与えられるほどの射程はないようだ。
めまぐるしく減少していく高度を示す数値を見やりながら、ブースターを使い、機体を安定させ、足を地面へと向ける。
長いようで短い、短いようで長い落下の時間。その果てに、地面があった。
地面の接近を知らせる警告音、そして事前に設定した高度に達した瞬間、機体のブースターが自動で駆動。鈍い衝撃と共に減速開始。ほんの数秒だ。機体の足が地面をつかみ、ぐらりと機体が揺れ、各関節が鈍く呻く。瀬川、無事着地。
『さぁ行きますわよ!』
『はい、姉さん』
ホッと一息入れる間もなく、先に着地したオルトロスたちがブースターを吹かしながら、前進していく。まだ味方の半数も着地を終えていないというのに、だ。
『瀬川さん、のろのろしていると置いていってしまいますわ! 来るなら急いでくださいまし!』
瀬川は応じる間もなく、愛機のブースターを吹かし、二機の背中を追った。
作戦では、敵基地内にある四つのプラント――拠点を順次押さえていき、前線を押し上げることで後続する味方の増援を受け入れる体勢を整え、その後にコアへ接近、これを破壊する……というものである。コアさえ破壊してしまえば、もはやこの基地はその存在価値が消失するも同然なのだ。
だが、オルトロスの二人は、これを無視していた。降下地点からすぐ近くにある拠点を二人は一瞬の躊躇いもなく、通り過ぎていく。
「まさか、二人……いや、俺たち三人だけでコアを叩こうってのか……!?」
もはや万歳アタックもいいところだった。コアはそう簡単に破壊できるものではなく、ましてや重火力などと比べるとやや火力で劣る強襲三機の一斉攻撃だけで落とせるものではないはずだ。……いや、それ以前に果たして本当にコアまでたどり着けるのか……?
間髪入れる間もない動きであったがためか、三機は思いの外抵抗らしい抵抗を受けることもなく、半ば人工島のような採掘口とその上を覆う施設にまで進むことが出来た。
瀬川はやはり機体の構成上、軽量級の二人からはどうしても遅れてしまっていた。
施設の屋上部を移動している最中、レーダーに敵影が写るが、それを見るより先に瀬川の目も――カメラ越しにだが――敵のブラストの姿を捉えた。
敵影七。守りのためであるが故か、やや突出している強襲が二、支援が二、装甲の厚い重量級重火力が三という構成だ。
敵からの銃撃が一斉に始まる。強襲のサブマシンガン、重火力の機関砲、支援は防衛ラインでも定めるように地雷をまいた。
オルトロス、速度を変えることなくそれら七体の敵に向かっていく。
『この程度の精度で……。姉さん、どうやらさしていい腕前とは思えませんよ。どうします?』
『どうもいたしませんわ、軽くかわいがってさしあげましょう』
瀬川機のサブモニターの中で、ニヤリ、と梗が酷薄な笑みを浮かべた。
鏡、副兵装の強化型グレネードランチャーに武器を交換、固まって来ていた敵陣の中に一撃叩き込んだ。やや突出していた強襲の二機は慌てて飛び上がるようにして回避したものの、足の遅い重火力は対処できずこれを喰らった。衝撃に三機は体勢を崩し、機関砲は沈黙。
『瀬川さん、一機、差し上げますわ。とどめをさしてくださいまし』
梗は意味のわからないことを告げるなり、補助兵装の近接戦闘用のLM-ジリオスに武装を交換。刃が輝く巨大な日本刀のようなそれを構えつつ、先程飛び上がった一機の着地を狙い、肉薄。相手の足が地面を捉える瞬間、懐に飛び込み、その刃を上空から叩きつけるようにして大振りに叩き斬る。
一瞬ではあった。ただ、白い光を放つ刃が軽量級の敵機体をまるで、飴細工かのように溶かし、切り裂き、そして薙ぎ払う様ははっきりと見て取れた。
敵機、後方に吹き飛びながら炎を上げ、爆散。
攻撃の反動により、振り下ろした体勢のまま動きを止めた梗の背後に、もう一機の強襲が背中合わせになるように着地。連射速度の遅い強化型グレーネードランチャーを手にしていた鏡はまだ次弾の装填は終えていないだろう。だが、瀬川の方とて、遅れてしまっていたがために主武器であるM99サーペント(サブマシンガン)で有効弾を与えられる距離ではなかった。
敵機、ブースターを吹かしながら再びジャンプすると共に体を捻ろうとするのだが……梗の方がはるかに反応が早い。
その場で、刃を構えたままクイックターン。機体を高速で反転できるよう、『イクシード』と呼ばれるチップにより、カスタムしていたのだ。
機体越しとはいえ、敵機のボーダーが息を呑んだのが瀬川にも伝わってきた。
『まずは一撃、あとは頼みますわ』
梗、払うように右上へ斬り上げる。敵機の装甲に深い一筋の傷が生まれ、吹き飛ばされる。そして、瀬川の目の前を転がった。
瀬川は反射的にその敵をロック、そして、M99サーペントのトリガーを引く。高速連射される弾丸、弾け飛ぶ空薬莢、鈍い振動のような衝撃が瀬川の体を揺らし、鼓動が止まりそうなほど、高鳴った。
敵機が応戦とも、立ち上がろうとも取れるような動きを一瞬見せるものの、それがどういう動きだったのかがわかる前に、散った。
『もたもたせずに、先に前へ。この後、あなたの機体では遅れてしまいますから』
鏡はランチャーから主武器のD99オルトロスへ武装を交換し、よろめきから立ち直りつつあった重火力三機へと向かう。
瀬川は慌てながらも、リロードしつつその声に従い、前へ出る……出ようとするのだが、機体の足は止まってしまった。
そこで展開しているのは、もはや、別次元の世界だった。三機の重火力、そして二機の支援兵が、驚くほど簡単に沢桔姉妹に手玉に取られている。
動きの鈍い重量級の重火力を弄ぶようにその間を飛び回り、ショットガンを装備しているがために連射の効かない支援兵に抱きつくように接近するその様は、まるで踊っているかのようだ。無論、地雷を踏むようなマネもない。
高速で、背に翼でもあるのではないかと疑いたくなるような空中機動を織り交ぜながら、二体の軽量級ブラストはD99オルトロスの絶えることのない咆哮を轟かせ、踊る、踊る、踊る。
装弾数の少ないD99だが、二人は時間差でリロードを繰り返し、まるで永遠と弾丸が放たれつつあるようにしか思えなかった。
敵は錯乱していることだろう。相手の戦法以上に、サブマシンガンが延々と叩き込まれ続けるという状況は、実際のダメージ具合よりもボーダーの精神をとにかく叩く。冷静さが、まず死ぬのだ。
二人の邪魔にならないように、M99を敵に散発的に撃ち込みながら彼らの脇を瀬川は抜ける。
全身から汗が噴き出ていた。全ては十数秒の出来事でありながら、すでにそれまでの自分たちの戦いとはレベルが違うのだということが痛いほどに伝わってきた。彼女らは強い。それは間違いないだろう。だが、彼女らと共に敵陣の中へ躍り込むということの恐怖がさらに増している。
共にいる味方が強いのに、不安になる。矛盾しているようだが、そうではない。出撃前に鏡が言ったように、敵陣のど真ん中で彼女らから置いていかれるのではないか……。そう考えざるを得ない。
彼女らには、彼女らの〝普通〟があることだろう。仮に気を使われたとて、その〝普通〟の腕前に自分が達していなければ……。
今からでも後方に下がり、味方の増援を待つべきではないのか。そんな弱気な考えが瀬川の頭を過ぎった時、レーダーに新たな反応が現れる。迫り来る三機の新手、それがいきなり表示されたのだ。
瀬川が上空を見上げてみれば、支援兵装において装備される広範囲の索敵を可能とする小型無人偵察機である。それが上空を飛び抜けていった。
『ナイスですわ、二階堂さん、素晴らしいタイミング! 瀬川さん、一気に行きますわよ!』
「梗、待ってくれ。俺はやっぱりダメだ、ついて行けそうにない。お荷物になる」
『ダメです、もう言っている場合ではありません。早く前進してください、恐らくあと数秒で著莪さんのが来ますよ』
何を言っているのか、一瞬瀬川にはわからなかった。
だが、さらにもう一瞬後には鏡が放った言葉の意味を理解した。
瀬川は反射的に強襲用高機動ユニットAC-マルチウェイを起動。それまでよりも数段パワーを増したブースターにより、機体は押し出されるようにして前進。迫り来た新手の射撃をかろうじてかわし、施設屋上から湖水を飛び越え、敵陣のコアへと続くコンクリートで固められたエリアへ到達。エネルギー残量を気にしてAC-マルチウェイを一度カット。
その瞬間、それは来た
――ギガノト榴弾砲。強力な火力を有する重火力兵装の中でも、最大クラスの破壊力を有する榴弾砲である。着弾の瞬間、凄まじい爆風が人工島全体を揺らし、空を焦がしかねないような爆炎が上がる。その炎の中で、パァンパァンと先程駆けつけた新手や、オルトロスのダンスに付き合わされた重火力たちが弾け飛ぶのが見て取れた。
『まるで……ブリキ缶だぜ!』
わざわざ通信回線を開き、満面の笑みで著莪が得意げに言ってのける。
ギガノトを喰らって無傷なブラストなんて存在しない以上、ブリキ缶もクソもない。
『さぁ、ここまできたら後少しですわよ瀬川さん!』
『もう退けませんよ、最後まで付いてきてください』
ハイテンションな姉の声を、冷静な妹の声が継いだ。
瀬川の上を姉妹が飛び越えていき、さらにその上をあの二階堂という男が放った偵察機が地上を見張りながら飛んでいく。
それを見やった時、瀬川はまさかと感じた。
沢桔姉妹、著莪あやめ、そして二階堂は降下からこの瞬間まで全てを想定して行動していたのではないのか。
アクティブにいこう、そう二階堂は言っただけ。
しかしそれによりオルトロスが先行して一気に前線を押し上げ、接敵すればそこで敵の足を止める。その間に後方では偵察機を飛ばし、榴弾の砲撃準備。あとは、偵察機により敵の配置を正確につかんだらギガノトの精密な砲撃、着弾までの間に姉妹が装甲の厚い重量級にある程度のダメージを与えておけば……。
ありえない、と思った。しかし、オルトロスの二人が上空を飛んでいく偵察機に合わせてコアへ突撃しようとしているのを見ると〝もしかしたら〟という考えを捨てきれない。
仮にこれで自分を含め、沢桔姉妹がやられたとしても、一〇機に及ぶ敵を撃破し、敵陣営の最奥まで到達したのだ。味方はコア近くの拠点までをたやすく制圧してのけるだろう。
瀬川さん、と沢桔姉妹の二人の声がハモる。
瀬川はその声に引っ張られるように、ブースターを吹かして二人の後を追った。
コアを守ろうとするように設置されていた無数の砲台が一斉に姉妹に向く。光輝くエネルギー弾を空気を焦がしながら放つが、二人の強行は止められない。
沢桔姉妹はまるで飛行ユニットでもついているのではないかと思うほど、軽やかに空を舞いながら、砲台の防御線を突破していく。
砲台がそちらに向くことで瀬川にはほとんど砲撃は来ない。あれらが一斉に自分に向けられれば、それらをかわすだけのテクニックも、機体性能もないことは、瀬川自身わかっていた。
それ故に、また、汗が全身から吹き出る。震えそうになる手を叱咤し、機体を可能な限り高速に保つ。
速度は、力だ。そして今は、命綱だ。沢桔姉妹を追い切れないと判断した砲台が瀬川に狙いをシフトする前に相手の懐――ベースの中央部にあるコアの所――まで飛び込まなければ、己の愛機はただの的になる。突破も、後退も、単機では出来ない。
通常ブースター、レッドゲージ。AC-マルチウェイ、再び起動。ブースターを冷却しつつ、機体をさらに加速させる。飛び来た砲弾の下をくぐり抜けるようにしてコアに突進する。一発砲弾がかすめ、警告音が鳴り響く。
手に浮いた汗が、ひどく不愉快だった。一瞬でも気を抜くとグリップ操作をしくじりそうだ。
ベースを囲む壁に設置されていた二つの砲台が、瀬川を捉えたのが視界の隅に映る。
一つならともかく、二つ、かわせるのか。瀬川は自問自答するが、胸の奥から返ってきたのは解答ではなく、一発ならまだ耐えられるはずだ、という弱気な意見だった。
来る。……だが、来たのは一発だけ。瀬川は飛び上がることでそれをかわす。砲弾を放たなかった砲台を見やれば、それは光を放ちながら爆散するところだった。
何が起こったのか。その疑問の解答は瞬きする間に現れた。攻撃してきた砲台もまた、爆散。その直前に、一筋の強烈な光が見えた。――狙撃だった。
『いい腕だ、《ギリー・ドゥー》。砲台は二機、共に墜ちた』
二階堂の通信。そういえば、と瀬川は思い出す。あの輸送機から飛び出た時、すぐ横に狙撃兵装の機体の姿があった。
未だ見ぬ狙撃兵に感謝を述べつつ、瀬川、さらにAC-マルチウェイの出力を上げ、機体を加速させる。
瀬川機のカメラはコアに到達する沢桔姉妹を捉えた。
コアは一〇メートルほどの台座の上に載る巨大な光の弾のようなものだ。それを覆うようにして防護・エネルギー供給・及び放熱用の高いタワーが建っているが、下は空いている。そこにブラストを送り込めば……後は、叩くだけだ。
沢桔姉妹、そのタワーを挟み込むように左右に展開、手にしていた強化型グレネードランチャーをコアに叩き込む。強烈な二連撃は、タワーに激震を与え、黒い煙を吹き上げさせた。
しかし、コアは依然健在。沢桔姉妹、まるで動きをコピーしているかのように、まったく同じ挙動で武装を主武器のD99オルトロスへ交換、一斉射撃開始。豪雨のように辺りに空薬莢が放出されていく。
この時になってベース内に設置されている自動砲台が動き出し、二人を捉えようとするのだが、その動きを追随出来はしなかった。二機は、飛び跳ねまわりながら、それぞれがコアを中心にして時計回りに周り始める。自動砲台は最寄りの敵を狙うようにプログラムを組まれているため、二人の高速機動に対応しきれず、見当外れな箇所に砲弾を放つばかりだ。
「あれに、俺が入り込めるのかっ!?」
瀬川はコックピット内で、一人疑問を叫ぶ。だが、コアまで到達しておきながら見学などしていられない。強襲乗りとしてのプライドが、本能が、それを許さない。例え未熟なボーダーであったとしても、強襲乗りは強襲乗りだ。コアへの突撃はこの上ない甘美な夢なのだ。
M99サーペントを手に、沢桔姉妹のダンスに瀬川は飛び込む。彼女らと共にコアの周りを回る。撃ち続ける。唄うように連射音を轟かせ、笑うようにマズルフラッシュを光らせる。
レーダーに、かすかな反応。高々度、ブラストではない。輸送機。そこから四機、新たに投下された。
『姉さん、敵の増援です!』
『了解ですわ!』
強襲兵装の四機がコアを、瀬川たちを囲むようにして降下してくる。空中から射撃。瀬川の機体はもちろん、沢桔姉妹の機体にも着弾。だが、瀬川たち三人の射撃は止まらない。
そこに、一閃。着地に備えてブースターを吹かし、空中で減速した一機の頭が弾け飛んだ。ギリー・ドゥーからの狙撃によるヘッドショットだ。
『良い腕ですこと!』
着地に成功した三機がそれぞれ瀬川たちに張り付く。彼らは皆、コアとの間に身を挟み、己の機体を楯にして攻撃を防ごうというのだ。
コアを叩き続けるか、増援を先に叩くか……判断の時だった。
瀬川は、コアを狙うことに賭けた。自分が堕ちるより先に、コアを堕とす。そう、覚悟を決めた。ここで撃破されようとも、その際にはこのコアを道連れにしてやる。
着弾し続ける敵の銃撃。鳴り響き続ける警告音、機体の異常を知らせる文字がモニターを埋めていく。
喰い縛った歯の隙間から呻きを漏らしながらも、瀬川は射撃を止めない。コアを堕とす、そのためだけに命を捨てる。それもまた、強襲乗りだ。
だが、堕とせるのか……?
『来なさい!』
『はい、姉さん!』
時計回りのダンスを踊っていた沢桔姉妹の動きが変わる。姉が一瞬コアから離れると同時に、武装を背負っていたLM-ジリオスに交換。その刃が、光輝く。
妹が敵を引き連れ、姉に接近。
その瞬間になって、自分が何をすべきなのか、瀬川ははっきりとわかった。あれほどコアに固執していた己の闘争本能を理性が押さえ込み、瀬川はオーバーヒート寸前になっていたAC-マルチウェイの最後の力を振り絞り、梗の機体へ向かって飛んだ。
敵、ピッタリとついてくる。向こうは向こうで、コアを守るために命を捨てる覚悟だ。そのために、その目には瀬川機しか映っていない。
『いい判断ですわよ、瀬川さん!』
瀬川は、梗の目前で鏡の機体と交差。それぞれを追っていた敵機がぶつかり、一瞬、動きを止めた。
今、敵機の中のボーダーたちは何を思い、どんな顔をしているのか。酷薄な考えを、瀬川は持った。
LM-ジリオスの光が迸る。三機のブラスト、それらをまとめて梗は一閃の元に、叩き斬った。
飛び散るブラストの破片、炎、光。爆音。
『行きなさい! コアを!』
LM-ジリオスの反動により、斬り捨てた体勢のまま動けない梗の言葉に押され、瀬川は通常のブースターを吹かし、鏡と共にコアに再接近。
機体が悲鳴を上げている。警告音はもちろん、各関節がすでに通常ではあり得ない駆動音を響かせていた。
だが、それでも、動くのだ。愛機はまだ、戦えると言っている。瀬川は握り締めたグリップから、そう、感じた。
M99サーペント、鏡と共にありったけの弾丸をコアに叩き込む。
あのLM-ジリオスの斬撃はかなり無理があったのか、機体の至るところから煙を上げている梗が強化型グレネードランチャーに武器を持ち替え、再びコアに叩き込んだ。
タワーが傾き始めるが、それでも、まだだ。
「硬いっ!!」
瀬川を笑うように、上空を輸送機が通過。五機、降下。機体上部に取り付けられたカメラは、それらが中量級の重火力が三に、支援が二だと捉える。
ギリー・ドゥーからの狙撃が繰り返されるが、堕ちたのは支援の一機だけだ。
『待たせたッ!!』
著莪あやめからの通信。あの全身ヘヴィガードで固めた重量級重火力の機体が、ドフッドフッと鈍い音を立ててベースに進入してくる。
「あのノロさで、よくもここまで!」
瀬川はコアを撃ちながら、思わず笑った。あの尋常ではない装甲も、火力も、この状況ではありがたい。そのたくましい無骨なボディがまるで守護天使にさえ、瀬川には見えた。
著莪機が抱えていた大火力ガトリングガン、GAXダイナソアが巨獣のような雄叫びを上げる。機体越しにも伝わってくる空間を叩く凄まじい爆音の連射。着地した瞬間を狙い撃たれた支援兵装機は、その全身が飴であったかのように、融けるようにして姿を消した。
著莪機は続けざまに重火力機を叩き始める。同じ重火力兵装であっても、中量級と重量級ではその意味するところはまったく違う。
さらに一機、頭を吹き飛ばす……が、そこでGAXダイナソアはオーバーヒート。銃身が煙を上げ、安全装置が働き停止した。
著莪、躊躇なく武装を交換し、手榴弾型のECM弾を敵に向かって叩きつけた。
それは強力な妨害電波を発し、敵機のカメラを一定時間阻害する。
敵機が辺り構わず銃撃を始めたのを見て、瀬川はすでにマガジンが空になったM99サーペントを投げ捨て、近接戦闘用兵器、マーシャルソードに持ち変える。日本刀のようなLM-ジリオスとは違い、西洋の刀剣を思わせる無骨で肉厚なブレードだ。
明後日の方向に向かって射撃を繰り返す敵機。その重火力を左へ水平に斬り、そしてそのまま返す刃で一歩深く踏み込むと同時に右へ払い斬る。
耳をつんざく、金属音。高精度に組まれた芸術品とも言えるブラストをその刃は破壊し……そして、ついに、両断。
瀬川機のすぐ近くで、二つになった敵機が、爆発した。
斬り払った体勢のまま、機体が固まる。各関節が深刻なダメージを負っているとモニター上に無数の文字が次々に現れる。そんな中に、別種の警告音。敵に、ロックされた。見やれば、MLRS――多連装ロケットシステムを抱えた最後の敵機。重火力。
機体、未だ動けず。やられる。
瀬川はモニターに映る敵機から目が離せなかった。ここまで来て。そんな思いを胸に、その重火力機を見続ける。
せめて、コアが堕としてから死にたかったな。そう声にならない声を漏らした時、敵機の腹部から刃が突き出た。
鏡の、ピアシングスピア。巨大な槍の刃だ。
『さぁ、押し切りますわよ!』
D99オルトロスに武装を交換した梗が、言った。
瀬川は礼を言う間もなく、ロックが解けた機体で武装を41型強化手榴弾を握る。鏡もまた、ピアシングスピアを抜き取ると再びD99オルトロスを手にコアに向かう。
そして、二人の背後で、武装を重火力最大火力を誇るプラズマカノン・ネオを著莪機が担ぎ上げた。
四丁の高速連射音、弾ける榴弾、そして炸裂するプラズマ弾。
巨大な光の塊であるコアが、断末魔の光を放つ。
地面が揺れる。自動砲台はコアから流れ込んでくる莫大なエネルギー量に耐えきれず、次々に爆散していく。
タワーの至るところで爆発が起こり、煙を上げながら、傾き、そして、崩壊していく。
その様子を、瀬川はコックピットから、呆然として眺めていた。
機体はすでに立っていることすらおぼつかず、タワーが完全に倒れ、コアがその光を失うのを見届けたのとほぼ同時に、システムは完全にダウン。機体が、仰向けに倒れた。
真っ暗になったコックピットの中で、瀬川は己が生き残ったのだと、感じた。
また、シートが汗を吸った。
また一つ、死線を抜けたのだ。
瀬川は明かりとして腕時計のライトを点灯。作戦開始から数分と経っていない。全ては一瞬と言ってもいい、わずかな時間の出来事だったのだろう。
腕時計の数字を見ていると、本当に今の戦いが現実だったのか、不安になってきた。瀬川は慌ててシートベルトを外し、コックピットを手動開放。まるで廃墟の扉でも開くかのような鈍く、重い音。その果てに、青空が視界一杯に飛び込んできた。
コックピットから抜け出て、煙を上げる愛機の上に、瀬川は寝転がる。背に熱さを感じながら、上空を飛び回る最終安全確認用にやって来たEUSTヘリを見やった。
あれが現れたということは、自分たちの出番は完全に終わったのだ。
肌を撫でる湖からの風が、ひどく心地よい。
「ご無事ですか、瀬川さん」
瀬川は上半身を上げると、声の方を見やった。すぐ近くに梗の機体が膝をついており、コックピットから彼女が顔を覗かせている。
「とりあえず、誰も欠けることなくやり遂げたって感じかな。機体はボロッてるけど」
地面を揺らしながら、重量級機体が近くにやって来ると、梗と同じようにコックピットを開いて著莪が言った。
そして同じように鏡もまた、瀬川機の横に膝をついてコックピットを開く。
「皆さん、お疲れ様です」
カメラを通さず、初めて直接見た彼女らの顔は不思議とどこか親しみを持って瀬川は見ることが出来た。
風が吹く。強い。彼女ら三人の髪を激しく揺らす。ブラスト回収用の輸送ヘリが瀬川機のすぐ近くで着陸態勢に入っていた。自走出来ない、と判断されたのだろう。
「……終わったんだな、本当に。Aクラスの、初陣が」
思わず漏らすように、瀬川が言った。
ヘリのローター音の中であっても聞こえたのか、梗が、そうですわ、とニッコリと微笑んだ。
「そして、ようこそ。Aクラスへ」
梗の言葉に、瀬川は笑った。
何だかよくわからなかったが、笑えた。笑いながらまた、仰向けに倒れ空を見上げた。碧空。
Bクラス以下は教練でしかない、そう口にするボーダーたちの気持ちが、瀬川にもようやくわかった。
一秒の隙が命取りになり、一度の誤りが勝敗をひっくり返す……そんな世界。
本物の戦場……それが、ここなのだ。
自分はここでやっていけるのか。生き残れるのか。
瀬川は自問自答する。しかし、答えは返ってこない。
だが、空の色はどこか今までと違って見えていた。
<了>
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボキャンペーン』
ヽ('∀`)ノ スタートォォォオォォウゥゥ!!
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(`・ω・´)b 皆様、よろしくお願いいたします。
さて、話は変わって。
ベン・トー女性キャラアンケートの結果発表はいましばらくお待ちください。
また、拍手コメントの返信も今しばらく……。
ネタバレはもうしばらく先になります故。
(´・ω・`)ほら、ベン・トーって読み終わるのにお時間が必要になる場合が多いので、ちょっと多めに時間を取っておりますです。
(今回は早めに拍手ボタンを設置)
さて、さらに話は変わって。
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボ記念 アサウラが勝手にやらかす特別短編』
……を、公開しようかと。
ヽ('∀`)ノ 書きたいから書き殴ったっていうだけの、ボダブレ短編!
(´・ω・`)先日、っていうか、まぁ昨日なんですけど、某知り合いと食事に行こうという約束をしていたものの……一時間ほど遅刻なされましてね?
それで、その間に何となく書き始め、その後一晩で一気に書き上げた代物のため……誤字脱字、完成度とかを気にしちゃダメです。
……ボーダーブレイクをやったことがない人でも読めるようなものを……と、最初考えていたものの、徐々にそれを無視していった気がするので、最終的にある程度ゲームを知っていないと苦しいかもしれない内容に……。
●ボーダーブレイクのウィキペディアへGO●
優しい気持ちで、暇で暇で死にそうって時にお読みいただければと思います。
また、ここのブログの状態では若干読みにくいかもしれませんので、コピペして、お好きなテキストファイルとかに貼り付けてお読みいただくとよろしいかと。
内容量は文庫換算で30ページほどです。
(`・ω・´)b WEBだから、ベン・トーよりも改行多めだぜ!
(`・ω・´)b…………………………。
(`・ω・´)b ……一晩で30ページ書けるなら、一週間で文庫本一冊仕上げられるな……。
(捕らぬ狸の何とやら……)
『ベン・トー×ボーダーブレイクコラボ記念 アサウラが勝手にやらかす特別短編 ――Aクラスの狼――』
●読み始める前の諸注意●
※まったくボーダーブレイクを知らない人だと、ちょっとキツイかもしれません。
※意外なほどボーダーブレイクは資料が少ないため、結構勝手な設定でやっておりますので、あまり鵜呑みにしないでください。割と創作が多いです。
※(いろいろ)笑って許して。
※作中に出てくる『ニュード』や『コア』はアサウラも詳しくはよくわかりません。何か、毒性の強い資材だったり、エネルギーだったりするみたいです。
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彼にとって、今回が初陣だった。
正確には上級者たちが集うAクラスでの、初の実戦である。しかしながら『ブラストランナー(通称ブラスト)』と呼ばれる汎用人型兵器の搭乗者にとって、Bクラス以下とAクラス以上では天と地ほどの差があるのは常識であり、そこに至るまでが教練であると語る者も数多い。
無論、最下層であるDクラス以上はその全てが実戦である。死ぬ者も数多い。しかし、それでもそれは教練でしかないのだという。
実際、彼がこれまでの記録映像を漁った限り、BクラスとAクラスではその実力に天と地ほどの差があるのはもちろん、個々の腕前だけではなく、その一〇名で構成されるチームの戦略・戦術にも大きな差異が見て取れる。
一秒のロスで勝敗がひっくり返りかねない高速機動戦闘が基本となるブラスト同士の戦いにおいては、かつてのそれのように指揮官が指令を出し、それを部下が実行するといった当たり前の戦法がほぼ不可能となった。その場その場で、通称『ボーダー』と呼ばれるパイロットが、それぞれ状況を一瞬ごとに理解し、これに独自の判断で対処しなければならない。
つまり指示はもちろん、仲間内で情報を伝え合い、次の行動を議論するということすら間に合わないのだ。
ボーダーの多くは彼のように、傭兵として民間軍事会社『マグメル』に登録し、GRF、EUSTという二つの陣営に分かれて争うことになるわけだが、この際基本的に自分がどちらの陣営に配属され、誰と組むことになるのかはマグメルのオペレーター次第である。つまり、昨日の敵は今日の戦友であり、突発的な編成で敵と相対するハメになるため、長く一緒にやってきたが故の経験と馴れ合いによるチームワークなどは皆無である。
だが、Aクラスのパイロットたちはそれでもなお、驚くほど息を合わせるのだ。彼らは各々が培ってきた経験により、その時の状況が自分に何を求めているのかを即座に理解し、そして行動し、味方の勝利へ貢献する。Bクラス以下では、どうしても個々のボーダーがバラバラで戦い、結局数の力を活かしきれていなかったのだと、Aクラスに昇った今の彼は理解できた。
ブラスト同士が入り乱れる戦場における勝敗を左右するのは、個々の実力がもたらす結果としての組織力だ。
そしてそれを踏まえるに、結局のところ、個としての実力はもちろんのこと、その視野の広さ、判断力、そして即応力こそがAクラス以上とBクラス以下との差なのだと、彼は思っていた。
輸送機内にけたたましいブザー音が鳴り響き、瞼を閉じていた彼の意識を揺らした。
寝ていたわけではないにせよ、その音によって彼はコックピットの座席から一瞬尻を浮かしてしまう。
『作戦領域、接近。各ブラストランナーのパイロットは搭乗してください』
EUST専属オペレーターのチヒロの声。すでに搭乗していた彼のコックピットには、黒髪の女性の顔がモニター隅に表示されていた。
彼はメインモニターに表示させていた作戦領域である『オルグレン湖水基地』のマップを閉じ、外部カメラの映像を表示させる。
輸送機内にキッチリと並べられ、未だ機に固定されている複数台のブラストの背が映し出された。軽量型の強襲兵装二機を始め、中量級の支援兵装、そして昨今のAクラスでは珍しいとされるエアロン・エアハート社のヘヴィガードと呼ばれる重量級モデルで固めた重火力兵装のブラストまでいる。
己を含めた、それら計五機の組み合わせは、なかなかバランスが良さそうだった。
もう一機、恐らくすぐ近くを飛んでいるであろう輸送機にはさらに五機搭載されているが、そちらの方は、わからなかった。
足回りや、キャットウォークを酸素マスクを腰に下げた整備兵たちが忙しく走り回っている。そんな中を、悠々と歩いてくる者たち。そこだけはBクラスもAクラスも変わらない。パイロット、即ちボーダーたちだ。初めてのAクラスでなければ、彼もまた彼らと同じように忙しく走り回る整備兵の間を悠々と歩いて来たことだろう。
緊張と不安と、そしてAクラスのボーダーたちにバカにされるのではないかという弱気が、彼を愛機のコックピットに閉じこめていた。
彼はシステムを起ち上げ、今一度自分の機体をチェック。TSUMOIインダストリ社のクーガーNX型をベースに組み上げた軽量寄りの中量級機体。兵装は強襲。
強襲タイプの兵装こそブラスト戦における花形であるが、その分実力を要求される。コア――と呼ばれる敵ベースの資源にしてエネルギー集積体――を破壊するための切り込み要因であると共に、その移動速度の早さから敵に襲撃された際の即応まで全てをこなす必要がある。
上の、新たなクラスに昇級した場合は、まず支援兵装で様子を見るのが良しとされている。だが彼はあえて使い慣れた機体と兵装を選んでいた。自分の一番自信の持てる機体で、兵装で、望みたかったのだ。どうせ死ぬのならせめて自分が最も良しとするもので全力を尽くしたかったし、自分の能力を最も発揮できる構成でなければそれこそAクラスではやっていけない、そう思ったからだった。
彼は狭いコックピット内で一度深呼吸する。鋼鉄の機体と、座席に染みこんだ己の汗の臭い。吸い慣れた、臭い。それはこれこそが己の愛機だと、彼に感じさせた。
汗の臭いだけ死線をくぐり抜け、そして慣れ親しむほどにこの機体で、戦ってきたのだ。
それを思うと、彼の緊張はいくらかでも緩和出来た。経験が自信となるのだ。
座席のシートベルトで己をしっかりと固定していると、ボーダー同士の通信回線がにわかに賑やかになってきた。戦闘開始前に騒ぐのはAクラスでも変わらないらしい。
もう一機の輸送機のボーダーたちとも繋がっており、それぞれが皆、自分勝手な話をしている。今日の飯のこと、チヒロのこと、マグメルのシステムオペレーターにしてボーダーたちのアイドル的存在でもあるフィオナのこと、そして今日の戦闘のこと……。
彼のサブモニターには回線をONにした他のボーダーたちの姿が映し出されており、そこに老若男女、それぞれがメーカーも違えば装備も違う、そのくせして同じように狭苦しいコックピットに収まりながら自分勝手な話をしているというのは、どこか滑稽さを感じさせる。元々は通信回線の最終チェックとして互いに発言をするという通例であったらしいが、今では完全に形骸化し、この有様だった。
彼もまた、回線を開き、天気のことを喋ってみた。今日は、快晴だった。
『あら? 見慣れない方がいらっしゃいますわね。機内ではお見かけいたしませんでしたけど。……戦場では相まみえたことはあったかしら、ねぇ鏡?』
『資料によるとBクラスから上がってきて、今回がその一戦目らしいので、恐らくはないかと。あとこの回線はオープンですから、その当の本人も聞いていることをお忘れなく、姉さん』
自分のことだと、彼にはすぐにわかった。サブモニターを見て、声の主を捜すもすぐに見つける。同じような顔をした十代後半の女が二人……それも、知った顔だった。
《オルトロス》という二つ名を有した双子のボーダーである。沢桔梗と沢桔鏡という、発音するとまったく同じという面倒な姉妹であり、マグメルに無理を言って姉妹で必ず組ませるよう強要したという有名人である。有名になった所以が、その要望を聞き入れられるまで、敵陣営にそれぞれ配備された場合は作戦を放棄し続けたのだという、普通では考えられない手段を執ったことだ。これにマグメルは折れた……が、その時のせいで、実力ではSクラス以上と謳われているにも関わらず、未だにAクラスにランク付けされているのだとされていた。
『あら、それはまずいですわね。……聞こえております? 初めまして、沢桔と申します。あなたと同じ、強襲乗りですわ』
すぐ前にいた機体が駆動し、その上半身を捻って彼の機体に向けて手を振ってくる。その手には、D99オルトロスと呼ばれるデュアルサブマシンガンが握られていた。
オルトロスだからD99オルトロスを使うのか、それともD99オルトロスを使うからオルトロスと呼ばれているのか……ふと、彼はそんなことを考えた。
「あ、どうも。初めまして。今回が初陣みたいなもんで……その、迷惑かけるかもしれませんが……よろしくお願いします。瀬川です」
そう彼――瀬川はやや慌てながら応じた。
『瀬川さん、ですね。……こちらこそ、よろしくお願いいたします。妹の鏡です』
基本ショートだが、左右のもみあげだけ伸ばし、どこかやる気のないような、淡々とした顔つきをした方が言った。
『初陣……なるほど、いい心意気ですわね。よろしくてよ、瀬川さん。そういう気持ちがあるのなら、きっとAクラスにおいても長生きすることが出来ますわ』
ロングの髪、それでいて先程から見ていると表情がコロコロと変わるこちらが姉の梗なのだろう。今は、まるで肉食獣が獲物でも見るような目で、モニター越しに瀬川を見ていた。
『あんま新人をビビらすんじゃないよ、オルトロス。リラックスさせてやんなよ、そいつ、ずっと機体内で小さくなってたんだろうからさ』
折角の豊かで美しい金髪を携えておきながら、何故かボサボサの髪型の女が割り込むように言っていた。青い瞳を持ち、赤いフレームの眼鏡が印象的だった。パイロットスーツのようなものも着ず、赤いスカジャンを羽織っただけで乗り込んでいる辺り、戦闘に対する慣れを感じさせる。
彼女は著莪あやめだと名乗り、そして、あの重量級の重火力使いなのだと述べた。
『あら、著莪さん、お久しぶりですわね。しばらくお会いしない間に装備を変えましたのね』
姉さん、と諭すように鏡が言うと、あっ、と梗は口に手を当てた。
『失礼いたしましたわ、瀬川さん。怯えさせてしまったのなら謝ります。……そうですわね、初めてのAクラスということでしたら、謝罪の意味も込めて、わたくしたちがあなたをエスコートする……というのでいかがでしょう。ご一緒にコアへ向かいませんこと?』
ニッコリと梗が微笑み、言ってくれる。瀬川は一瞬その表情に安堵のようなものを覚えた。何であってもそうだが、ベテランや名うてからエスコートを受けるというのは、何とも言えない安心感があるものだ。
しかし、それは一瞬でしかなかった。鏡が、やれやれというように、首を振る。
『姉さん、無茶ですよ。私たちに付いて来られるとは思いません。足手まといどころか、敵陣に置き去りにしてしまうかもしれません』
鏡の声や表情からするに、それは挑発でもバカにしているわけでもないようだ。ただ事実を述べただけだろう。
『鏡、失礼ですわよ。瀬川さんは、そんなこと……ないですわよね?』
無論、そう言われてしまっては逃げ道はもはやない。瀬川は、付いていく、と口にしてしまう。著莪が画面の中で『あ~あ』という顔をしていたのが、瀬川の鼓動を高めた。
やっぱりやめる、情けなさを押しやり、慌てて瀬賀は言ったがその声はチヒロの通信によってかき消された。
『これより作戦領域に突入します。敵ベースにあるコアの完全破壊が作戦目標です。頑張ってください』
声にどこか初々しさが未だ残るチヒロの声を聞きながら、瀬川は歯を食い縛り、後悔と不安を胸の奥底に沈めるしかなかった。
愛機を戦闘モードへシフト。高々度を飛行する輸送機の騒音よりも、愛機が発する駆動音の方が大きくなる。
愛機の目覚め……この瞬間、いつもそう感じた。そして命の遣り取りを行う戦場にこれからおもむくのだという緊張感が薄れていく。
こいつとなら大丈夫だ、改めてそう思わせる。この感覚を与えてくれるものこそが、愛機だった。
『今回の作戦では、我々に守るベースはない。ただ攻めるだけだ。オルトロスがいる以上、ゆっくり前線を押し上げていくよりも、アクティブにいこう』
気取った感じのする男の声。サブモニターを見やれば、線の細い、それでいて冷徹そうな目をした男だ。コンソールを叩き、情報を出してみると、支援兵装の二階堂という奴らしい。
オルトロスが彼に親しく話しかけているところを見ると、相応の実力者なのかもしれない。
瀬川は、頑張ろう、と、小さく己に向けて呟いた。
輸送機の格納庫の照明が赤く点滅。機体の足下や、キャットウォークを走り回っていた整備兵たちが一斉に酸素マスクを装着。機体が、いや、輸送機がバンク。投下ポイントの微調整に入ったのだろう。
赤い照明が消え、一瞬格納庫内が暗くなる。そこに、筋状の光が差し込んできた。輸送機後部のハッチがゆっくりと開き行く。
整備兵たちが大きく腕を振って合図を出すと、格納庫の床に固定されていた愛機のロックが解除され、ガクンと揺れた。機体下半身のアクチェータが巧みに駆動し、特に瀬川が何をするでもなく飛行中の輸送機内で即座に安定を得てみせる。旧型は全て手動で行うが故に、この際に転倒して大変なことになったらしいが、さすがに今そういう問題はなかった。
完全に開ききったハッチにより格納庫内は凄まじい風が荒れ狂う。多くの整備兵たちは腰から伸びるワイヤーを手すりなどに接続して作業を行っているが、機体内の瀬川にはその苦労はわからなかった。ただ映像と、機体の外部環境の状況を示す細かな数字の変動でしか認識できない。整備兵の戦いは、戦闘の前後なのだ。
そして、瀬川の戦いは……これからだった。
機体が固定されていた部分から、ハッチまでの床にガイドレールが重々しい金属音を上げてせり出してくる。簡易的なカタパルトだった。
『作戦開始です。出撃どうぞ』
チヒロが言うと、オルトロスの姉の方がまずカタパルトへその足で向かい、自らポジションに着く。
整備兵、GOサイン。
『沢桔梗、出撃いたしますわ』
カタパルト、起動。輸送機がその反動で揺れる。梗、輸送機外へ射出。即座に妹もまたカタパルトへ向かい、姉の背を追った。
『ホラ、行ってこい。新米Aクラスボーダー』
著莪にそう背中を押され、二機の連続射出で安定性を欠きつつある輸送機の中を、瀬川は慎重に、しかし急いでカタパルトへ向かった。
ポジションに着き、機体をやや前屈の射出体勢にて各関節を固定。そして、瀬川自身もシートのヘッドレストに後頭部を押しつけるようにして衝撃に備える。
「瀬川、出ます」
衝撃、そして猛烈な加速度。シートに身が沈むような感覚。操縦桿を硬く握り、歯を喰いしばる。
光の中へ飛び出すと、そこは……青。
薄暗い格納庫から、目の覚めるような青空の中へ飛び出したのだ。
加速度は緩やかになり、しかしその代わりの浮遊感が機体、そして瀬川を襲う。地上数千メートルからの降下は、鋼鉄に包まれた中にあっても、やはり、身の縮むような行為だった。
瀬川の周りに数機の機体。もう一機の輸送機から射出された仲間たちだろう。近くにいた狙撃兵装のブラストが、着地前だというのに光学迷彩を展開。空の青さの中に消えていった。
瀬川が周りを意識したのはそこまでだった。
下方に、敵のベースが見える。湖の中にある島、そこに繋がる人工島のようなニュード採掘口とその施設……そしてコンクリートで地盤を固めたエリア。目指すべきは、そのエリアだった。
コアの周りはさすがに警備が厳重であり、砲台が無数に設置されているが、湖の島の方へ射出された瀬川たちに有効弾を与えられるほどの射程はないようだ。
めまぐるしく減少していく高度を示す数値を見やりながら、ブースターを使い、機体を安定させ、足を地面へと向ける。
長いようで短い、短いようで長い落下の時間。その果てに、地面があった。
地面の接近を知らせる警告音、そして事前に設定した高度に達した瞬間、機体のブースターが自動で駆動。鈍い衝撃と共に減速開始。ほんの数秒だ。機体の足が地面をつかみ、ぐらりと機体が揺れ、各関節が鈍く呻く。瀬川、無事着地。
『さぁ行きますわよ!』
『はい、姉さん』
ホッと一息入れる間もなく、先に着地したオルトロスたちがブースターを吹かしながら、前進していく。まだ味方の半数も着地を終えていないというのに、だ。
『瀬川さん、のろのろしていると置いていってしまいますわ! 来るなら急いでくださいまし!』
瀬川は応じる間もなく、愛機のブースターを吹かし、二機の背中を追った。
作戦では、敵基地内にある四つのプラント――拠点を順次押さえていき、前線を押し上げることで後続する味方の増援を受け入れる体勢を整え、その後にコアへ接近、これを破壊する……というものである。コアさえ破壊してしまえば、もはやこの基地はその存在価値が消失するも同然なのだ。
だが、オルトロスの二人は、これを無視していた。降下地点からすぐ近くにある拠点を二人は一瞬の躊躇いもなく、通り過ぎていく。
「まさか、二人……いや、俺たち三人だけでコアを叩こうってのか……!?」
もはや万歳アタックもいいところだった。コアはそう簡単に破壊できるものではなく、ましてや重火力などと比べるとやや火力で劣る強襲三機の一斉攻撃だけで落とせるものではないはずだ。……いや、それ以前に果たして本当にコアまでたどり着けるのか……?
間髪入れる間もない動きであったがためか、三機は思いの外抵抗らしい抵抗を受けることもなく、半ば人工島のような採掘口とその上を覆う施設にまで進むことが出来た。
瀬川はやはり機体の構成上、軽量級の二人からはどうしても遅れてしまっていた。
施設の屋上部を移動している最中、レーダーに敵影が写るが、それを見るより先に瀬川の目も――カメラ越しにだが――敵のブラストの姿を捉えた。
敵影七。守りのためであるが故か、やや突出している強襲が二、支援が二、装甲の厚い重量級重火力が三という構成だ。
敵からの銃撃が一斉に始まる。強襲のサブマシンガン、重火力の機関砲、支援は防衛ラインでも定めるように地雷をまいた。
オルトロス、速度を変えることなくそれら七体の敵に向かっていく。
『この程度の精度で……。姉さん、どうやらさしていい腕前とは思えませんよ。どうします?』
『どうもいたしませんわ、軽くかわいがってさしあげましょう』
瀬川機のサブモニターの中で、ニヤリ、と梗が酷薄な笑みを浮かべた。
鏡、副兵装の強化型グレネードランチャーに武器を交換、固まって来ていた敵陣の中に一撃叩き込んだ。やや突出していた強襲の二機は慌てて飛び上がるようにして回避したものの、足の遅い重火力は対処できずこれを喰らった。衝撃に三機は体勢を崩し、機関砲は沈黙。
『瀬川さん、一機、差し上げますわ。とどめをさしてくださいまし』
梗は意味のわからないことを告げるなり、補助兵装の近接戦闘用のLM-ジリオスに武装を交換。刃が輝く巨大な日本刀のようなそれを構えつつ、先程飛び上がった一機の着地を狙い、肉薄。相手の足が地面を捉える瞬間、懐に飛び込み、その刃を上空から叩きつけるようにして大振りに叩き斬る。
一瞬ではあった。ただ、白い光を放つ刃が軽量級の敵機体をまるで、飴細工かのように溶かし、切り裂き、そして薙ぎ払う様ははっきりと見て取れた。
敵機、後方に吹き飛びながら炎を上げ、爆散。
攻撃の反動により、振り下ろした体勢のまま動きを止めた梗の背後に、もう一機の強襲が背中合わせになるように着地。連射速度の遅い強化型グレーネードランチャーを手にしていた鏡はまだ次弾の装填は終えていないだろう。だが、瀬川の方とて、遅れてしまっていたがために主武器であるM99サーペント(サブマシンガン)で有効弾を与えられる距離ではなかった。
敵機、ブースターを吹かしながら再びジャンプすると共に体を捻ろうとするのだが……梗の方がはるかに反応が早い。
その場で、刃を構えたままクイックターン。機体を高速で反転できるよう、『イクシード』と呼ばれるチップにより、カスタムしていたのだ。
機体越しとはいえ、敵機のボーダーが息を呑んだのが瀬川にも伝わってきた。
『まずは一撃、あとは頼みますわ』
梗、払うように右上へ斬り上げる。敵機の装甲に深い一筋の傷が生まれ、吹き飛ばされる。そして、瀬川の目の前を転がった。
瀬川は反射的にその敵をロック、そして、M99サーペントのトリガーを引く。高速連射される弾丸、弾け飛ぶ空薬莢、鈍い振動のような衝撃が瀬川の体を揺らし、鼓動が止まりそうなほど、高鳴った。
敵機が応戦とも、立ち上がろうとも取れるような動きを一瞬見せるものの、それがどういう動きだったのかがわかる前に、散った。
『もたもたせずに、先に前へ。この後、あなたの機体では遅れてしまいますから』
鏡はランチャーから主武器のD99オルトロスへ武装を交換し、よろめきから立ち直りつつあった重火力三機へと向かう。
瀬川は慌てながらも、リロードしつつその声に従い、前へ出る……出ようとするのだが、機体の足は止まってしまった。
そこで展開しているのは、もはや、別次元の世界だった。三機の重火力、そして二機の支援兵が、驚くほど簡単に沢桔姉妹に手玉に取られている。
動きの鈍い重量級の重火力を弄ぶようにその間を飛び回り、ショットガンを装備しているがために連射の効かない支援兵に抱きつくように接近するその様は、まるで踊っているかのようだ。無論、地雷を踏むようなマネもない。
高速で、背に翼でもあるのではないかと疑いたくなるような空中機動を織り交ぜながら、二体の軽量級ブラストはD99オルトロスの絶えることのない咆哮を轟かせ、踊る、踊る、踊る。
装弾数の少ないD99だが、二人は時間差でリロードを繰り返し、まるで永遠と弾丸が放たれつつあるようにしか思えなかった。
敵は錯乱していることだろう。相手の戦法以上に、サブマシンガンが延々と叩き込まれ続けるという状況は、実際のダメージ具合よりもボーダーの精神をとにかく叩く。冷静さが、まず死ぬのだ。
二人の邪魔にならないように、M99を敵に散発的に撃ち込みながら彼らの脇を瀬川は抜ける。
全身から汗が噴き出ていた。全ては十数秒の出来事でありながら、すでにそれまでの自分たちの戦いとはレベルが違うのだということが痛いほどに伝わってきた。彼女らは強い。それは間違いないだろう。だが、彼女らと共に敵陣の中へ躍り込むということの恐怖がさらに増している。
共にいる味方が強いのに、不安になる。矛盾しているようだが、そうではない。出撃前に鏡が言ったように、敵陣のど真ん中で彼女らから置いていかれるのではないか……。そう考えざるを得ない。
彼女らには、彼女らの〝普通〟があることだろう。仮に気を使われたとて、その〝普通〟の腕前に自分が達していなければ……。
今からでも後方に下がり、味方の増援を待つべきではないのか。そんな弱気な考えが瀬川の頭を過ぎった時、レーダーに新たな反応が現れる。迫り来る三機の新手、それがいきなり表示されたのだ。
瀬川が上空を見上げてみれば、支援兵装において装備される広範囲の索敵を可能とする小型無人偵察機である。それが上空を飛び抜けていった。
『ナイスですわ、二階堂さん、素晴らしいタイミング! 瀬川さん、一気に行きますわよ!』
「梗、待ってくれ。俺はやっぱりダメだ、ついて行けそうにない。お荷物になる」
『ダメです、もう言っている場合ではありません。早く前進してください、恐らくあと数秒で著莪さんのが来ますよ』
何を言っているのか、一瞬瀬川にはわからなかった。
だが、さらにもう一瞬後には鏡が放った言葉の意味を理解した。
瀬川は反射的に強襲用高機動ユニットAC-マルチウェイを起動。それまでよりも数段パワーを増したブースターにより、機体は押し出されるようにして前進。迫り来た新手の射撃をかろうじてかわし、施設屋上から湖水を飛び越え、敵陣のコアへと続くコンクリートで固められたエリアへ到達。エネルギー残量を気にしてAC-マルチウェイを一度カット。
その瞬間、それは来た
――ギガノト榴弾砲。強力な火力を有する重火力兵装の中でも、最大クラスの破壊力を有する榴弾砲である。着弾の瞬間、凄まじい爆風が人工島全体を揺らし、空を焦がしかねないような爆炎が上がる。その炎の中で、パァンパァンと先程駆けつけた新手や、オルトロスのダンスに付き合わされた重火力たちが弾け飛ぶのが見て取れた。
『まるで……ブリキ缶だぜ!』
わざわざ通信回線を開き、満面の笑みで著莪が得意げに言ってのける。
ギガノトを喰らって無傷なブラストなんて存在しない以上、ブリキ缶もクソもない。
『さぁ、ここまできたら後少しですわよ瀬川さん!』
『もう退けませんよ、最後まで付いてきてください』
ハイテンションな姉の声を、冷静な妹の声が継いだ。
瀬川の上を姉妹が飛び越えていき、さらにその上をあの二階堂という男が放った偵察機が地上を見張りながら飛んでいく。
それを見やった時、瀬川はまさかと感じた。
沢桔姉妹、著莪あやめ、そして二階堂は降下からこの瞬間まで全てを想定して行動していたのではないのか。
アクティブにいこう、そう二階堂は言っただけ。
しかしそれによりオルトロスが先行して一気に前線を押し上げ、接敵すればそこで敵の足を止める。その間に後方では偵察機を飛ばし、榴弾の砲撃準備。あとは、偵察機により敵の配置を正確につかんだらギガノトの精密な砲撃、着弾までの間に姉妹が装甲の厚い重量級にある程度のダメージを与えておけば……。
ありえない、と思った。しかし、オルトロスの二人が上空を飛んでいく偵察機に合わせてコアへ突撃しようとしているのを見ると〝もしかしたら〟という考えを捨てきれない。
仮にこれで自分を含め、沢桔姉妹がやられたとしても、一〇機に及ぶ敵を撃破し、敵陣営の最奥まで到達したのだ。味方はコア近くの拠点までをたやすく制圧してのけるだろう。
瀬川さん、と沢桔姉妹の二人の声がハモる。
瀬川はその声に引っ張られるように、ブースターを吹かして二人の後を追った。
コアを守ろうとするように設置されていた無数の砲台が一斉に姉妹に向く。光輝くエネルギー弾を空気を焦がしながら放つが、二人の強行は止められない。
沢桔姉妹はまるで飛行ユニットでもついているのではないかと思うほど、軽やかに空を舞いながら、砲台の防御線を突破していく。
砲台がそちらに向くことで瀬川にはほとんど砲撃は来ない。あれらが一斉に自分に向けられれば、それらをかわすだけのテクニックも、機体性能もないことは、瀬川自身わかっていた。
それ故に、また、汗が全身から吹き出る。震えそうになる手を叱咤し、機体を可能な限り高速に保つ。
速度は、力だ。そして今は、命綱だ。沢桔姉妹を追い切れないと判断した砲台が瀬川に狙いをシフトする前に相手の懐――ベースの中央部にあるコアの所――まで飛び込まなければ、己の愛機はただの的になる。突破も、後退も、単機では出来ない。
通常ブースター、レッドゲージ。AC-マルチウェイ、再び起動。ブースターを冷却しつつ、機体をさらに加速させる。飛び来た砲弾の下をくぐり抜けるようにしてコアに突進する。一発砲弾がかすめ、警告音が鳴り響く。
手に浮いた汗が、ひどく不愉快だった。一瞬でも気を抜くとグリップ操作をしくじりそうだ。
ベースを囲む壁に設置されていた二つの砲台が、瀬川を捉えたのが視界の隅に映る。
一つならともかく、二つ、かわせるのか。瀬川は自問自答するが、胸の奥から返ってきたのは解答ではなく、一発ならまだ耐えられるはずだ、という弱気な意見だった。
来る。……だが、来たのは一発だけ。瀬川は飛び上がることでそれをかわす。砲弾を放たなかった砲台を見やれば、それは光を放ちながら爆散するところだった。
何が起こったのか。その疑問の解答は瞬きする間に現れた。攻撃してきた砲台もまた、爆散。その直前に、一筋の強烈な光が見えた。――狙撃だった。
『いい腕だ、《ギリー・ドゥー》。砲台は二機、共に墜ちた』
二階堂の通信。そういえば、と瀬川は思い出す。あの輸送機から飛び出た時、すぐ横に狙撃兵装の機体の姿があった。
未だ見ぬ狙撃兵に感謝を述べつつ、瀬川、さらにAC-マルチウェイの出力を上げ、機体を加速させる。
瀬川機のカメラはコアに到達する沢桔姉妹を捉えた。
コアは一〇メートルほどの台座の上に載る巨大な光の弾のようなものだ。それを覆うようにして防護・エネルギー供給・及び放熱用の高いタワーが建っているが、下は空いている。そこにブラストを送り込めば……後は、叩くだけだ。
沢桔姉妹、そのタワーを挟み込むように左右に展開、手にしていた強化型グレネードランチャーをコアに叩き込む。強烈な二連撃は、タワーに激震を与え、黒い煙を吹き上げさせた。
しかし、コアは依然健在。沢桔姉妹、まるで動きをコピーしているかのように、まったく同じ挙動で武装を主武器のD99オルトロスへ交換、一斉射撃開始。豪雨のように辺りに空薬莢が放出されていく。
この時になってベース内に設置されている自動砲台が動き出し、二人を捉えようとするのだが、その動きを追随出来はしなかった。二機は、飛び跳ねまわりながら、それぞれがコアを中心にして時計回りに周り始める。自動砲台は最寄りの敵を狙うようにプログラムを組まれているため、二人の高速機動に対応しきれず、見当外れな箇所に砲弾を放つばかりだ。
「あれに、俺が入り込めるのかっ!?」
瀬川はコックピット内で、一人疑問を叫ぶ。だが、コアまで到達しておきながら見学などしていられない。強襲乗りとしてのプライドが、本能が、それを許さない。例え未熟なボーダーであったとしても、強襲乗りは強襲乗りだ。コアへの突撃はこの上ない甘美な夢なのだ。
M99サーペントを手に、沢桔姉妹のダンスに瀬川は飛び込む。彼女らと共にコアの周りを回る。撃ち続ける。唄うように連射音を轟かせ、笑うようにマズルフラッシュを光らせる。
レーダーに、かすかな反応。高々度、ブラストではない。輸送機。そこから四機、新たに投下された。
『姉さん、敵の増援です!』
『了解ですわ!』
強襲兵装の四機がコアを、瀬川たちを囲むようにして降下してくる。空中から射撃。瀬川の機体はもちろん、沢桔姉妹の機体にも着弾。だが、瀬川たち三人の射撃は止まらない。
そこに、一閃。着地に備えてブースターを吹かし、空中で減速した一機の頭が弾け飛んだ。ギリー・ドゥーからの狙撃によるヘッドショットだ。
『良い腕ですこと!』
着地に成功した三機がそれぞれ瀬川たちに張り付く。彼らは皆、コアとの間に身を挟み、己の機体を楯にして攻撃を防ごうというのだ。
コアを叩き続けるか、増援を先に叩くか……判断の時だった。
瀬川は、コアを狙うことに賭けた。自分が堕ちるより先に、コアを堕とす。そう、覚悟を決めた。ここで撃破されようとも、その際にはこのコアを道連れにしてやる。
着弾し続ける敵の銃撃。鳴り響き続ける警告音、機体の異常を知らせる文字がモニターを埋めていく。
喰い縛った歯の隙間から呻きを漏らしながらも、瀬川は射撃を止めない。コアを堕とす、そのためだけに命を捨てる。それもまた、強襲乗りだ。
だが、堕とせるのか……?
『来なさい!』
『はい、姉さん!』
時計回りのダンスを踊っていた沢桔姉妹の動きが変わる。姉が一瞬コアから離れると同時に、武装を背負っていたLM-ジリオスに交換。その刃が、光輝く。
妹が敵を引き連れ、姉に接近。
その瞬間になって、自分が何をすべきなのか、瀬川ははっきりとわかった。あれほどコアに固執していた己の闘争本能を理性が押さえ込み、瀬川はオーバーヒート寸前になっていたAC-マルチウェイの最後の力を振り絞り、梗の機体へ向かって飛んだ。
敵、ピッタリとついてくる。向こうは向こうで、コアを守るために命を捨てる覚悟だ。そのために、その目には瀬川機しか映っていない。
『いい判断ですわよ、瀬川さん!』
瀬川は、梗の目前で鏡の機体と交差。それぞれを追っていた敵機がぶつかり、一瞬、動きを止めた。
今、敵機の中のボーダーたちは何を思い、どんな顔をしているのか。酷薄な考えを、瀬川は持った。
LM-ジリオスの光が迸る。三機のブラスト、それらをまとめて梗は一閃の元に、叩き斬った。
飛び散るブラストの破片、炎、光。爆音。
『行きなさい! コアを!』
LM-ジリオスの反動により、斬り捨てた体勢のまま動けない梗の言葉に押され、瀬川は通常のブースターを吹かし、鏡と共にコアに再接近。
機体が悲鳴を上げている。警告音はもちろん、各関節がすでに通常ではあり得ない駆動音を響かせていた。
だが、それでも、動くのだ。愛機はまだ、戦えると言っている。瀬川は握り締めたグリップから、そう、感じた。
M99サーペント、鏡と共にありったけの弾丸をコアに叩き込む。
あのLM-ジリオスの斬撃はかなり無理があったのか、機体の至るところから煙を上げている梗が強化型グレネードランチャーに武器を持ち替え、再びコアに叩き込んだ。
タワーが傾き始めるが、それでも、まだだ。
「硬いっ!!」
瀬川を笑うように、上空を輸送機が通過。五機、降下。機体上部に取り付けられたカメラは、それらが中量級の重火力が三に、支援が二だと捉える。
ギリー・ドゥーからの狙撃が繰り返されるが、堕ちたのは支援の一機だけだ。
『待たせたッ!!』
著莪あやめからの通信。あの全身ヘヴィガードで固めた重量級重火力の機体が、ドフッドフッと鈍い音を立ててベースに進入してくる。
「あのノロさで、よくもここまで!」
瀬川はコアを撃ちながら、思わず笑った。あの尋常ではない装甲も、火力も、この状況ではありがたい。そのたくましい無骨なボディがまるで守護天使にさえ、瀬川には見えた。
著莪機が抱えていた大火力ガトリングガン、GAXダイナソアが巨獣のような雄叫びを上げる。機体越しにも伝わってくる空間を叩く凄まじい爆音の連射。着地した瞬間を狙い撃たれた支援兵装機は、その全身が飴であったかのように、融けるようにして姿を消した。
著莪機は続けざまに重火力機を叩き始める。同じ重火力兵装であっても、中量級と重量級ではその意味するところはまったく違う。
さらに一機、頭を吹き飛ばす……が、そこでGAXダイナソアはオーバーヒート。銃身が煙を上げ、安全装置が働き停止した。
著莪、躊躇なく武装を交換し、手榴弾型のECM弾を敵に向かって叩きつけた。
それは強力な妨害電波を発し、敵機のカメラを一定時間阻害する。
敵機が辺り構わず銃撃を始めたのを見て、瀬川はすでにマガジンが空になったM99サーペントを投げ捨て、近接戦闘用兵器、マーシャルソードに持ち変える。日本刀のようなLM-ジリオスとは違い、西洋の刀剣を思わせる無骨で肉厚なブレードだ。
明後日の方向に向かって射撃を繰り返す敵機。その重火力を左へ水平に斬り、そしてそのまま返す刃で一歩深く踏み込むと同時に右へ払い斬る。
耳をつんざく、金属音。高精度に組まれた芸術品とも言えるブラストをその刃は破壊し……そして、ついに、両断。
瀬川機のすぐ近くで、二つになった敵機が、爆発した。
斬り払った体勢のまま、機体が固まる。各関節が深刻なダメージを負っているとモニター上に無数の文字が次々に現れる。そんな中に、別種の警告音。敵に、ロックされた。見やれば、MLRS――多連装ロケットシステムを抱えた最後の敵機。重火力。
機体、未だ動けず。やられる。
瀬川はモニターに映る敵機から目が離せなかった。ここまで来て。そんな思いを胸に、その重火力機を見続ける。
せめて、コアが堕としてから死にたかったな。そう声にならない声を漏らした時、敵機の腹部から刃が突き出た。
鏡の、ピアシングスピア。巨大な槍の刃だ。
『さぁ、押し切りますわよ!』
D99オルトロスに武装を交換した梗が、言った。
瀬川は礼を言う間もなく、ロックが解けた機体で武装を41型強化手榴弾を握る。鏡もまた、ピアシングスピアを抜き取ると再びD99オルトロスを手にコアに向かう。
そして、二人の背後で、武装を重火力最大火力を誇るプラズマカノン・ネオを著莪機が担ぎ上げた。
四丁の高速連射音、弾ける榴弾、そして炸裂するプラズマ弾。
巨大な光の塊であるコアが、断末魔の光を放つ。
地面が揺れる。自動砲台はコアから流れ込んでくる莫大なエネルギー量に耐えきれず、次々に爆散していく。
タワーの至るところで爆発が起こり、煙を上げながら、傾き、そして、崩壊していく。
その様子を、瀬川はコックピットから、呆然として眺めていた。
機体はすでに立っていることすらおぼつかず、タワーが完全に倒れ、コアがその光を失うのを見届けたのとほぼ同時に、システムは完全にダウン。機体が、仰向けに倒れた。
真っ暗になったコックピットの中で、瀬川は己が生き残ったのだと、感じた。
また、シートが汗を吸った。
また一つ、死線を抜けたのだ。
瀬川は明かりとして腕時計のライトを点灯。作戦開始から数分と経っていない。全ては一瞬と言ってもいい、わずかな時間の出来事だったのだろう。
腕時計の数字を見ていると、本当に今の戦いが現実だったのか、不安になってきた。瀬川は慌ててシートベルトを外し、コックピットを手動開放。まるで廃墟の扉でも開くかのような鈍く、重い音。その果てに、青空が視界一杯に飛び込んできた。
コックピットから抜け出て、煙を上げる愛機の上に、瀬川は寝転がる。背に熱さを感じながら、上空を飛び回る最終安全確認用にやって来たEUSTヘリを見やった。
あれが現れたということは、自分たちの出番は完全に終わったのだ。
肌を撫でる湖からの風が、ひどく心地よい。
「ご無事ですか、瀬川さん」
瀬川は上半身を上げると、声の方を見やった。すぐ近くに梗の機体が膝をついており、コックピットから彼女が顔を覗かせている。
「とりあえず、誰も欠けることなくやり遂げたって感じかな。機体はボロッてるけど」
地面を揺らしながら、重量級機体が近くにやって来ると、梗と同じようにコックピットを開いて著莪が言った。
そして同じように鏡もまた、瀬川機の横に膝をついてコックピットを開く。
「皆さん、お疲れ様です」
カメラを通さず、初めて直接見た彼女らの顔は不思議とどこか親しみを持って瀬川は見ることが出来た。
風が吹く。強い。彼女ら三人の髪を激しく揺らす。ブラスト回収用の輸送ヘリが瀬川機のすぐ近くで着陸態勢に入っていた。自走出来ない、と判断されたのだろう。
「……終わったんだな、本当に。Aクラスの、初陣が」
思わず漏らすように、瀬川が言った。
ヘリのローター音の中であっても聞こえたのか、梗が、そうですわ、とニッコリと微笑んだ。
「そして、ようこそ。Aクラスへ」
梗の言葉に、瀬川は笑った。
何だかよくわからなかったが、笑えた。笑いながらまた、仰向けに倒れ空を見上げた。碧空。
Bクラス以下は教練でしかない、そう口にするボーダーたちの気持ちが、瀬川にもようやくわかった。
一秒の隙が命取りになり、一度の誤りが勝敗をひっくり返す……そんな世界。
本物の戦場……それが、ここなのだ。
自分はここでやっていけるのか。生き残れるのか。
瀬川は自問自答する。しかし、答えは返ってこない。
だが、空の色はどこか今までと違って見えていた。
<了>
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