アサウラの生存観察室

皆様の優しさによって生かされている者の記録です。

 世の中にイージーな仕事なんて存在しない。
 いつだって金になるのはハードな仕事だけだ。

 ちっとは社会に出れば誰もが知る当たり前のことだが、しかしなかなかどうして甘い考えってのは捨てられない。
 内容と報酬を聞いて、もしかしたらボロイかもしれない、そんなふうに思っちまうもんさ。

 今回の俺の仕事も、まさにそんな感じだった。

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 このウェルシュコーギーをある人物の元へ届ける。
 ……たったそれだけの簡単な依頼。
 誰だってそう思うだろ?

 確かに依頼人は偽名を使って俺たちに接触してきたわけだが、誰でも名前を隠さなければならない時ってのは往々にしてあるもんさ。気にすることじゃなかった。
 念のため事前に人を使って調べて見たが、このアレンデという男にはさほど警戒するほどの経歴はなかったんだ。 


 俺は3月23日、早速パスポートと護身用の簡単な装備を持って日本を発った。
 行き先はサンフランシスコ。
 そこでまずチームと合流、その後依頼人からコーギーを受け取り、アメリカを陸路で横断し、フィラデルフィアへ向かう。
 バカでも五秒で覚えられるシンプルな内容だ。

 こんな内容で間違いが起こるとすれば道中、コーギーの尻尾を踏んで途中で逃がしちまうぐらいなもんさ。
 まぁ、このコーギーに尻尾があれば、だがな。


 それで、だ。

 余裕の仕事。そう思ってた矢先だった。
 通常は四人の俺たちのチームだったが、颯爽とドクロ3号が乗る飛行機を間違え、中東の紛争まっただ中の国へぶっ飛んでいった。
 懐にガンはあるくせに、入国管理局への根回しっつぅか、そもそもビザもなしっつぅ最高にファンキーな冒険がヤツを待ち受けていたことだろうが、そんなもんはどうでもよく、任務が始まる前の段階でチームの戦力が四分の一が失われるということの方が俺たちには大きな問題だった。

 しかし、これはただの序章でしかなかったのさ。
 俺たちがサンフランシスコの空港に降り立ち、コーギーを受け取った数時間後、ビッグなトラブルが起こった。

 完全武装の兵士による襲撃だ。

 正直この時の俺の装備はお世辞にも十分とは言えず、ホテルに火を放たれた段階で手に持っていたのは聖書とコーギーのクソが入ったビニール袋という、この世の終わりのような有様だった。
 しかしそうじゃなくても俺がサンフランシスコに持ち込んだのはブローニングハイパワー一丁のみであり、それを握りしめていたとしても、とてもACRを揃えて突入してきた豪勢な連中と渡り合えるわけがなかった。

 しかし、ここで諦めるような奴はこの手の職業はやっていけない。
 いや、正確にいえば、俺は諦めたんだが、メンバーの一人、ドクロ4号は違った。

「俺に任せておけ」

 そう言って奴が取り出したのが、コレだ。

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 これがチームというものだろう。
 正直空港で合流した時、コイツはどこにピクニックに行く気なのかと正気を疑ったが、現実ってのはわからねぇもんだ。



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 狂気を絵に描いたような4号の活躍により、俺たちはホテルを脱出。
 その後、近くの森に逃げ込み、体勢を調え、反撃に打って出た。

 まず森に火を放ち、相手を混乱させた後、ゆっくりとハントしていった。


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 一番燃えていた時の写真は、正直カメラを構えている余裕がなかったので、存在しない。
 残念だ。


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(スコップを使うどくろ2号)




 ちなみにその後、敵の遺体はきちんと葬ってやった。
 個人的な恨みではなく、お互いに仕事として戦ったプロとしてのせめてもの礼儀だ。


 そんな派手なお出迎えだったわけだが、その後は意外と順調だった。
 車を手に入れた俺たちは一路東へとひた走ったわけだが、車中で俺たちは必死に考えた。

 襲撃部隊の装備が恐ろしく良かったこと、練度も高い、何より戦闘に犬を巻き込むことに躊躇いを持たなかったこと……。
 敵は何者だ? 目的は何だ? この依頼の本当の目的は何だ?
 そして、イージーだと思ったこの仕事は、どこまでハードなのかと……。
 

 最初は何とか切り抜けられたが、次はそうはいかないだろう。
 例え何が起こっても大丈夫なようにと、話し合うまでもなく、俺たちは道中で可能な限りの装備を調えた。
 恐らく、チームメンバーの誰もが思っただろう。

 このまま終わるわけがない、と。
 

 もちろん、こういう悪い予感ってのはその日の天気予報よりも当たるもんだ。
 車内で犬が数回に渡って尿を解き放った事件もあったが、この際それはおいておこう。

 次の襲撃はシカゴのすぐ近く、ジュリエットというロマンチックな名前の街でのことだった。
 緑の多い住宅街だった。
 そこで今度の連中は武装ではなく、数で押し敵やがった。
 メーカーも定かじゃないハンドガンやカラシニコフ、練度もマチマチの連中さ。
 
 当たり前だが、相手に備えられた段階で奇襲は成立しない。
 俺たちは持っていた火器の凶暴さを連中に見せつけた。


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 吠え猛るMINIMIでザコを薙ぎ払い、突っ込んできたトラックにグレネードを打ち込み、コーギーの柔らかめのクソを袋に入れて次々に処理。

 ただ、俺たちの狙いは敵をボロ雑巾のようにして、後悔すらさせぬままアスファルトの上に寝かせてやることじゃない。
 敵を倒しながら、俺たちは指揮を執っていた奴を見つけ出し、これを捕縛。
 先程袋に詰め込んだ犬の糞を利用して、情報を聞き出すことにした。
 ……どのように使ったかは想像力豊かな皆々の頭に任せよう。
 考え得る最悪の使用法、恐らくそれがビンゴだ。

 少なくとも、俺は口にしたくない。

 それで、結論から言えば、面白い話が聞けた。
 案の定、今回の任務、ただのお犬の散歩というわけじゃなかったのさ。

 当初から確かにおかしな話ではあった。
 何故、犬なんぞを運ばねばならないのか。
 何故、広大なアメリカを横断するのに陸路を厳命されたのか。
 何故、目的地はフィラデルフィアだったのか。
 何故、日本からわざわざ俺たちのチームを呼び寄せたのか。
 何故、このコーギーは車内で尿を解き放ちたがるのか。

 全てではなにせよ、俺たちは答えを手にした。

 この一見どこにでもいるコーギーは、60年以上昔に行われたある実験、その真実へ繋がるたった一つの《鍵》なのだという。
 フィラデルフィア、そして60年以上前の実験……この二つだけで思いつける連中もいることだろう。
 そうだ、あの《フィラデルフィア計画》だ。

 知らない奴に教えてやると、アメリカ海軍が行った特殊なテスラコイルを用いての戦艦のステルス化実験だ。
 しかしながらこの実験は予想外の結果になり、レーダーは元より、肉眼ですら確認できないというわけのわからない事態に陥ったのだ。しかもそれは姿を消した、というより、瞬間移動したということらしく、はるか彼方にまで一瞬でぶっ飛び、そして戻ってきたのだ。
 それだけなら大成功だが、実際には戦艦の中にいた人間の多くはこの世のものとは思えないくたばり方をし、生き残った連中も精神をやられ、酷い有様だったという。
 この結果を重く見た海軍はこの計画そのものを隠蔽した……というヘタクソなおとぎ話のような内容だ。


 てっきりオカルトなホラ話だとばかり思っていたが、俺たちの膝を放尿で湿らすのを自分の仕事だと勘違いしているこの小さな犬こそが、その証拠であり、再現するためには必要なのだという。
 その《鍵》としての効能を維持するためには急激な気圧な変化はマズイらしく、飛行機は使えなかったらしい。

 そして今現在、フィラデルフィアの沖にはこれに関連した実験を再現しようとしているグループの船が存在するのだという。
 俺たちの感動のゴールはそこってわけだ。
 しかしながら当然、このステルスシステムを我が物としたい奴ら、隠しておきたい奴ら、このシステムを取引の材料に使いたい奴ら……そんな連中が必死扱いて現在アメリカ中を探し回っているらしい。

 これで、何故俺たちなのか、ということもわかった。
 どうも、犬は俺たちだけではなく、少なくとも17のチームがサンフランシスコより出発し、さまざまな経路を辿ってフィラデルフィアを目指しているのだ。
 この中のどれか一つが本物で、他は偽物だという。
 正直、誰でもオトリとして使えるのなら何でも良かったのだろう。
 その中の一つとして、扱いやすかった俺たちが選ばれた、というわけだ。

 当然、まともに考えて俺たちなんぞにモノホンの《鍵》である犬が来るわけがないが、襲ってきた連中は手当たり次第、コーギーを手に入れろと命令を受けているらしい。

 頼むから誰か奴らにペットショップか、コーギーのブリーダーの電話番号を教えてやって欲しい。
 
 
 恐らく俺たちが運んでいるのはただの犬。
 しかし、だからといって放り投げるわけにはいかない。

 俺たちは再びフィラデルフィアを目指した。
 ここまで来た以上、きっちり仕事をこなし、金を貰って帰りたい。
 こんなクソな仕事を回した情報屋のN氏を無理矢理呼び寄せ、責任を取らせる形で戦力も増強させた。
 何も、問題はない。
 


 で、相変わらずのように俺たちは膝を犬の尿で濡らしながらフィラデルフィアに今朝方到達したわけなんだが……。


 現状はこんな有様だ。

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(手前にいるのはN氏、奥にいるのは昨年ロシアで狙撃任務を行っていたO氏ことドクロ2号)



 今の日本じゃ、原発や地震のニュースばかりで報道されていないかもしれないが、フィラデルフィアの都市部に入って三度俺たちは襲撃を受け、結果的にバスをハイジャックする形となっちまった。
 しかも相対しているのは敵組織だけじゃなくて、地元のS.W.A.T.チームまでバスを囲んでいる最高にハイな状況だ。

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 すでに一度突入を試みられたが、その際は何とか撃退した。
 しかしタイヤはパンクさせられ、逃走のために走り出していたバスは銀行の外壁に衝突して停止している。
 
 ……だが、まだバスは走れる。奴らはそれにまだ気づいていない。
 次に敵が仕掛けてきた時、こちらの残った弾薬をバラ撒くと共にバスを発進、脱出を計るつもりだ。
 恐らくこれをしくじると、もう道はない。



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(自分)


 今日はクソみたいに天気がいい。
 撃ち合いをするには最高だ。

 バスは心地よい緊張感に包まれ、片隅で犬が真剣な顔で糞をひねり出している。


 かなりヤバイ状況だが、何とかなるだろう。

 何より俺は金を稼ぎに来たのだ。
 ならば、これは当たり前のことだ。

 イージーな仕事なんて存在しない。
 いつだって金になるのはハードな仕事だけだ。
 それを俺は、忘れていない。




 ……警官の動きが慌ただしくなってきた。
 マスコミが遠ざけられている。
 ビルの上の狙撃班が位置を変えている。

 次の銃声と共にバスが走り出すだろう。

 今、俺達はそのスタートの合図を静かに待っている――。























































 (´・ω・`)……と、いう忙しい状況なので、
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